PSクラシックで遅延問題が発生!
先日発売されたPSクラシックについて、「一部のゲームで遅延がひどすぎてゲームにならない*1」という報告が、多数のユーザーから上がっていました。
PSクラシックのグラディウス外伝、1定時間毎にフレームが飛ぶのダメだろ。多分描画タイミングと演算タイミングが合ってなくて、辻褄合わせるときに飛んでるんだろうな。操作遅延も体感6フレ位の感覚。正直ゲームになってない。お手軽にグラ外とGダラとR4をやれるのが嬉しくて買ったがこれは擁護不能 pic.twitter.com/taJjJzkWvM
— katsuemon (@katsuemon_z80) 2018年12月5日
私もアクション系のレトロゲームが大好きで、ゲームの遅延には敏感な方なので、「正直ゲームになってない」という↑の方の気持ちはとてもよく解ります。せっかく楽しみに購入したゲームが、遅延によりまともに遊べるシロモノになっていない…本当に、悲しい事態ですよね。
しかし…
↑のような方がいる一方で、同じゲームを遊んでも「遅延?別に気にならないけど?」という方が存在することもまた、事実です。このような体感の違いは、なぜ発生するのでしょう?
この点について、今回の記事では詳しく解説していこうと思います。
そもそも遅延とはなにか?
そもそもなぜ、「遅延」という現象は発生するのでしょう?多くのサイトで既に解説されている内容ですが、まとめがてらおさらいしておきます。
遅延とは、プレイヤーがコントローラー入力を行ってから、その結果がテレビ画面に反映されるまでのライムラグのことです。この遅延が大きいと、
- キャラクターが入力に即座に反応しないことによる爽快感の低下。
- 画面情報とゲーム機の内部処理情報に食い違いが発生し、画面に「数フレーム前の過去の情報」が表示されることになってしまう、それに伴った難易度上昇。
といった問題が発生し、タイミングや爽快感が重要な、アクション・STG・格ゲー・音ゲー・FPSといったジャンルで、特に致命的な欠陥となります。
www.4gamer.net↑詳しく知りたい方は上記記事参照。「ゲームにならない」が比喩では無いことが理解できるハズ。
レトロゲームをリアルタイムで遊んでいた時代のプレイ環境
こうした遅延現象は、液晶テレビでゲームを遊ぼうとした時にのみ発生する現象であり、「ブラウン管+実機直挿し」の環境では、この現象は発生しません*2。
私たちがリアルタイムでレトロゲームを遊んでいた時代、多くの家庭ではブラウン管テレビでゲームをプレイしていました。内閣府のデータによれば、液晶テレビの世帯普及率が50%を超えたのは、2009年*3。PS3、XBOX360、Wiiの時代ですね。
コレ以前の時代は、コンポジット端子(いわゆる「黄色い端子」)や、S端子・D端子・RGB端子等を使い、ブラウン管のテレビにゲーム機を接続して遊ぶというスタイルが主流でした。この環境はいわば「オリジナル環境」であり、この環境での遅延は論理的にゼロです*4。
しかし現在のプレイ環境の主流は、「液晶テレビ+HDMI接続」。この「環境差」の部分に、遅延が発生する要因が潜んでいるのです。
遅延が発生する要因には、以下のものがあります。
- 液晶モニタの遅延。
- セレクターの遅延。
- HDMI変換時(アップスキャンコンバーター)の遅延。
- エミュレータの遅延。
- ソフトウェア本体の遅延。
- プレイヤーのやりこみ度に応じた体感的な遅延。
これら各要素について、以下で解説していきます。
液晶モニタの遅延
液晶モニタは構造的にブラウン管よりも応答速度が遅く、大なり小なり必ず遅延が発生します。
これについてはメーカー各社が対策を講じており、画質をある程度犠牲にすることで応答速度を上げた「ゲームモード」を搭載した液晶モニタにより、遅延を軽減させることが可能です。テレビでは東芝のレグザ、ソニーのブラビア。ゲーム用ディスプレイではBenQ等が有名ですね。
最近の低遅延をウリにしたモニタでは、スペック表に「応答速度」という項目があり、遅延の程度を確認することが可能です。この項目が1ms(1/1000秒)以下であれば、モニタの遅延はプレイ上ほぼ問題にならないレベルと考えてよいでしょう*5。
↑BenQ『XL2420G』のスペック表。「応答速度」に注目。「GtoG」はグレイtoグレイの略。遅延対策にはGtoGの値で選べばOK。
なお、この液晶モニタの遅延に関しては、レトロゲームだけではなく、最新のゲーム機で遊ぶ際にも影響を及ぼします。遅延について語るのであれば、低遅延モニタの使用は大前提と言っても過言ではありません。
BenQ ゲーミングモニター ディスプレイ XL2420G 24インチ/フルHD/TN/144Hz/DisplayPort搭載/G-SYNC
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セレクターの遅延
複数のゲーム機を切り替えるために、セレクターを使用している方も多いと思いますが、これも機種によっては遅延の原因となります。基本的に、「パススルー方式」と仕様に書かれている機種であれば、遅延は発生しないハズです*6。書かれていない機種では、遅延が発生する可能性があります。仕様を確認してから購入しましょう。
なおこの項目も、最新のゲーム機で遊ぶ際にも影響を及ぼします。注意してください。
サンワダイレクト HDMIセレクター HDMI切替器 4入力×1出力 光、同軸デジタル出力付き 3D対応 リモコン付 400-SW015
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HDMI変換時(アップスキャンコンバーター)の遅延
最近の液晶モニタは、入力端子としてHDMI端子しか搭載されていないモデルが主流となってきています。こうしたモニタに昔のゲーム機を繋げるためには、なんらかの形でゲーム機の出力信号をHDMIに変換する必要があり、それを実現するコンバーター(アップスキャンコンバーター)も多数発売されています。
しかし、この変換処理には非常に大きな時間がかかり、遅延の原因となります。多くのコンバーターでこの遅延は致命的なほど大きく、アクション系のゲームでは使い物にならないレベルなのですが…
なんとこの変換処理の遅延対策専用をウリにしたコンバーターが、世界にたったひとつだけ存在します。それが、マイコンソフト社の「フレームマイスター」です。
マイコンソフト FRAMEMEISTER N/フレームマイスターN XRGB-mini DP3913547 【限定パック】
- 出版社/メーカー: マイコンソフト
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メーカー公式発表によれば、その遅延、なんと0.1フレーム!(1/600秒)私も自宅で愛用していますが、確かに遅延はほとんど感じられない*7スグレモノです。
アスペクト比を当時と同じ4:3にしてくれる機能やスキャンラインを再現してくれる機能等もあり、レトロゲームを実機で遊ぶのであれば、フレームマイスターは必須。私はこれを買うまで、液晶テレビでPS2以前のゲームを遊んだ際に「なんか違う感」がずっとあったのですが、フレームマイスターですべて解消されました。
ワイの違和感は思い出補正なんかではなく、やっぱり間違っていなかったんや…
このフレームマイスター、部品調達の難しさからすでに生産終了が宣言されており、現在市場に出回っているぶんが最終在庫となっています。早く買い占めましょう。私も壊れたときのために、すでに3台確保済みです。
エミュレータの遅延
最近はレトロゲーム互換機を謳い、古いゲームをHDMI出力で遊べるゲーム機も多数発売されています。これら互換機の中身は実機そのままというワケではなく、エミュレータでソフトウェア的に実機を再現したモノとなっています。ミニファミコンやPSクラシックも、同じ仕組みですね。
このエミュレータの性能も、遅延に大きく関わってくる重要な要素です。PSクラシックで報告されている遅延も、エミュレータの性能に問題があるのだと思われます。
この遅延については、残念ながら対策方法はありません。画質設定等を調整して遅延を軽くする工夫はできますが、無遅延までもっていけるケースはほとんど無いでしょう。私はエミュレータ機として「レトロフリーク」を使っているのですが、やはりどうしても遅延が気になり、アクション系のゲームを遊ぶときは「実機+フレームマイスター」に結局戻ってしまいました。
また、エミュレータ本体の他に、エミュレータ機に付属したコントローラに遅延の要因が存在することもあります。これについても、基本的に対処法はありません。
ソフトウェア本体の遅延
移植作品の中には、そもそものソフトウェア自体に遅延が存在するソフトも存在します。風評被害を防ぐためにここでは具体的なタイトル名は伏せますが、これについても対策は不可能です。タイトル毎に遅延情報を事前に集めてから購入しましょう。
プレイヤーのやりこみ度に応じた体感的な遅延
ここまでは、実際に計測可能な「物理的遅延」の話でした。しかし「世間的には遅延が問題視されてるタイトルだけど、自分はまったく遅延を気にせず遊べるよ!」という声を聞くことがあるのもまた、事実です。こうした遅延を、ここでは「体感的遅延」と呼びます。
「体感的遅延」は結局のところ、プレイヤーのやり込み度に応じて体感されたり、されなかったりする遅延です。年単位でやり込み続け、自キャラの挙動がもはやプレイヤーの血肉と化しているようなタイトルでは、1フレームの遅延すら致命的な遅延として体感されてしまう一方、初めて遊ぶタイトルでは、例え物理的に5フレーム遅延していても、「元からそういうもの」という感覚で遊べてしまう。これが人間の身体の性質であり、「体感的遅延」の厄介なところです。
例えば私はPS2版『グラディウスⅢ』をほとんど遅延を感じずに楽しめるのですが、アーケード版を年単位でやり込んだプレイヤーの方から言わせると、このタイトルの遅延は「ゲームにならない程ひどい」のだそうです(笑)
一方で私は、ゲーセンでやり込みまくった『バトルガレッガ』PS4版の初期バージョンでかなりひどい遅延を感じたのですが*8、ツイッター上ではこうした意見は少数派で、「遅延がなくて素晴らしい!」という声をたくさん見かけました。実際にはやはり遅延が存在し、パッチを当てた新バージョンによりそこから改善されていくのですが…
こうした遅延に対する感覚の違いは感情的な対立を産みやすく、自分と違う意見に対して噛みつきたくなるものですが、基本的には「やり込み量が多いプレイヤーが言っていることが一番信頼でき、真実に近い」のだと、私は考えています。
そのゲームを血肉となるほどにやり込んでいる、一番精通したプレイヤーが複数「遅延している」と言っているのであれば、たとえ初プレイの人間が「大丈夫だ、問題ない」と言っていても*9、そのタイトルにはやはり遅延があると考えるべきでしょう。だから私が「PS2版グラディウスⅢに遅延は存在しない(キリッ!」と言っていても、絶対に信用しないでくださいね(笑)
遅延について正しい知識を持ち、快適なレトロゲームライフを!
以上、遅延について思うところをいろいろ書いてみました。今回書いた各要因が複合的に絡み合い、最終的にプレイヤーに「遅延」として体感されるわけです。同じゲームを遊んでも遅延の体感に違いが出る理由としては、
- モニタ等、環境の違いに起因する「物理的遅延」
- プレイヤーのやりこみ度の違いに起因する「体感的遅延」
のどちらか一方、あるいは双方が影響しているのだと思われます。
遅延についてはプレイヤーの環境ややり込み量による体感の差がつきやすく、感情的な対立を産み出しやすいデリケートな話題です。しかし今回書いたような話を踏まえ、
- 「自分が感じた遅延はソフトやハードではなく、モニタに問題があるのではないか?」
- 「私は遅延を感じていないけど、やり込んだ人が遅延してると言うならそうなんだろう」
など、冷静な情報判断の参考にしていただければ幸いです。
特に、PSクラシックやミニファミコンでレトロゲームを久しぶりに遊んでみて、「なんか昔とプレイ感覚が違う…」と感じている方。それは、遅延が原因なのかも知れません。この記事等を参考に、低遅延環境を整えてみてはいかがでしょう?
ちなみに私は、物理的遅延が実際に存在するタイトルでも、プレイヤー本人が体感的遅延を感じていないのであればそれは幸せな話であり、なんら責められる事ではないと考えています。
むしろ、1フレームの遅延すら気になって許せないなんていう私のような人種は、ある種の病気です(笑)グルメな人間は、料理や味についての造詣は確かに深いのかも知れませんが、それによって上等な料理でなくては旨いと感じられなくなってしまっているというのであれば、それはある意味、不幸な話でしょう。
私のような「遅延警察」は、そういった意味では本当に可哀想な人種なのです。私達のような末期の「病人」の為に、遅延軽減に尽力してくださっているM2さんのような玄人好みのメーカーには、いくら感謝してもし尽くせません。今後もお布施を支払わせていただきます。
M2さんの移植タイトルですら遅延を感じてしまうレベルの病的な「グルメ」は、もはや「実機+ブラウン管」の環境を構築する以外、幸せになれる道はないでしょう。私も置き場所とカネさえあったら、ブラウン管、めっちゃ欲しいです。
まずは手始めに、実家の庭から油田を採掘するところから始めるしかない…
(おわり)
この記事のまとめ
- 技術面
- その他
【おまけ】遅延要因別、対策一覧
対策 | 備考 | |
液晶モニタ | 低遅延モニタ | 遅延を語るなら持ってて当たり前。最新ゲーム機でも影響アリ。 |
セレクター | パススルー方式 | 買う前に仕様書を確認。最新ゲーム機でも影響アリ。 |
HDMI変換 | フレームマイスター | フレームマイスターは至高。 |
エミュレータ | 無し | PSクラシックの遅延の原因はコレ。 |
ソフト本体 | 無し | 買う前に遅延情報を調べよう。 |
体感的遅延 | ゲームをやり込まないw | やり込んだ人間 is ジャスティス。お願いケンカはやめて! |