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弾幕STG誕生史 第2回 - 進化する弾幕要素 - 『バツグン』、『バツグンSPバージョン』、そして『怒首領蜂』 へ

弾幕STG誕生史、第2回

弾幕STG誕生史、第2回。前回の記事では、

  • 弾幕STGの萌芽は、『ヴイ・ファイヴ』から始まっている。
  • そしてそれは、『達人王』への反省から産まれた。

という話を書きました。

tarako-9p.hatenablog.com


今回は、その続き。『ヴイ・ファイヴ』で種を蒔かれた弾幕系の方向性をさらに推し進めた、『バツグン』『バツグンSPバージョン』についてのお話です。


もっとシンプルに! もっと派手に! もっと爽快に! - 『バツグン』

バツグン』は、『ヴイ・ファイヴ』の翌年、1994年に東亜プランがリリースした作品です。

バツグン』と『ヴイ・ファイヴ』を比較したとき、特筆されるべきはその「シンプルさ」です。『達人王』にしろ『ヴイ・ファイヴ』にしろ、この時期の東亜プランSTGは、「用意された数種類の武器を、"アイテム"や"グラディウス風ゲージシステム"で切り替えながらゲームを進めていく」という武器セレクトシステムを採用していました*1

しかし『バツグン』には、ゲーム中の武器セレクトの概念がありません。ゲームスタート時、異なった特徴を持つ3人のキャラクターから1人を選び、そのキャラクター固有の武器で戦うことになるのですが、1度ゲームをスタートした後は武器を切り替える手段が存在せず、ゲーム終了まで同じ武器で戦い続けることになります。


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↑固有の武器を持った3人の中から自機を選択する。ゲーム開始後の変更は不可能。


このことにより、『バツグン』はとてもシンプルなゲームになりました。『達人王』や『ヴイ・ファイヴ』の武器切り替えシステムには、「各々のシーンに適合した武器を模索する」というパズル的な面白みがありましたが、それは反面、プレイヤーに試行錯誤を強要する*2、初心者にとっては「敷居が高い」「面倒くさい」システムでもありました。

魔界村』を初めてプレイしたとき、何も知らずに斧やたいまつを取ってしまった時の絶望感を思い出してください*3。だったら最初から短剣だけくれよという話です。

最初から短剣しか与えられないゆえに、『バツグン』は、プレイヤーが余計な事を考える必要がありません。ただひたすらに飛来する敵機を撃ち落とし、敵弾を避け、本能的な破壊と弾避けの快楽に身を委ねればよいのです。『バツグン』のシンプルなゲームシステムは、STGの本質的な爽快感を味わうことに特化したゲームシステムだと言うことができるでしょう。

この「自機セレクト制」システムは、『怒首領蜂』以降の弾幕STGにも引き継がれ、CAVE製のSTGすべて ほとんどが *4 このシステムで制作されています。


こうした遊びやすいシステムに加え、東亜プランSTGとしては難易度も比較的低く、自機・敵の攻撃も非常に派手で見栄えが良く。初心者にとっても非常に遊びやすいゲームとして、対戦格闘ブーム全盛期のこの時代のゲーセン環境の中、STGとしては相当に健闘したスマッシュヒットとなりました。

www.youtube.com↑4面。疾走感あるテンポの速い音楽と相まって、爽快感あふれまくるステージ。



このように、「シンプルさ・派手さ・爽快さ」を押し出してスマッシュヒットとなった『バツグン』ですが、今回のテーマである「弾幕系」という観点から見た場合、実は『ヴイ・ファイヴ』からそれほど変化していません。自機の当たり判定の大きさも、敵弾の量に関しても。弾速に関しては、『達人王』・『ヴイ・ファイヴ』より、むしろ速いくらいです。

しかしそれにも関わらず、『バツグン』は『ヴイ・ファイヴ』と異なり、これまでもしばしば「弾幕系の前身となった作品」として語られてきました*5。なぜでしょう?

それは、『バツグンSPバージョン』の存在が大きかったのだと、私は考えています。


注:先ほど私は、"弾幕系要素は『ヴイ・ファイヴ』からそれほど変化していない"と書きましたが、1点、大きく変化している部分があります。それは、「敵弾の撃ち方」です。『バツグン』の敵弾の撃ち方は、『ヴイ・ファイヴ』のそれよりも、明らかに「弾幕系っぽい」。これについては私もまだ完全には言語化できていないので、後に別記事で考察したいと考えています。

www.youtube.com↑4面中ボス。敵弾の撃ち方に「弾幕系っぽさ」が感じられる。何気に敵弾が速いのも『バツグン』の特徴。



いまでも通用するレベルの弾幕系! - 『バツグンSPバージョン』

バツグンSPバージョン』(以下『バツグンSP』)は、『バツグン』のロケテスト時のバージョンです。本来、発売される予定はなかったハズなのですが、1994年の東亜プラン倒産後、なぜか非公式に基板が出回った作品で*6、出処は不明*7。私が初めてこのバージョンを目にしたのは1996年ごろ、黎明期の秋葉原トライアミューズメントタワーだったと記憶しています。


ロケテスト版なので、無印版よりも前に作られたゲームのハズなのですが、これが非常に「弾幕STGとして」尖った内容になっており、初めて観た私はド肝を抜かれました。

まず、自機の当たり判定が非常に小さい。非常に非常に非常に、異常なくらい小さい。『ヴイ・ファイヴ』・『バツグン』も、『達人王』に比べればびっくるするほど小さかったのですが、『バツグンSP』ではこれに輪をかけて小さい当たり判定が採用されています。下手したら、『怒首領蜂』よりも小さいのではないでしょうか?

加えて、敵弾が非常に多い。非常に非常に非常に非常に、バカみたいに多い。1周エンドだった無印版と異なり全4周*8となり、2周目以降は撃ち返し弾が飛んでくるのですが、この撃ち返し弾の量がハンパ無い。↓の動画をご覧ください。現代でも「弾幕系」として充分通用しそうなレベルの弾幕ではないでしょうか?

www.youtube.com↑昨今の弾幕系と比較しても、遅れをとらないレベルの弾幕!?


そしてこの強化された弾幕系要素がまた、『バツグン』のシンプルなシステムと抜群に *9相性がよかった。この余計な事を何も考えず、弾避けに集中した時の「ゾーン」に入る感覚は、現代の弾幕STGにも引き継がれている要素です。


バツグン』で追加されたシンプルなゲームシステム。そして『バツグンSP』で加わった、さらに極小化した自機の判定と、強化された弾幕。『ヴイ・ファイヴ』で種を蒔かれた「弾幕系」のゲーム性は、この『バツグンSP』でついに完成を見たといえるでしょう。

そしてこの方向性に時間をかけ、じっくりコトコト煮込んだ調整を加えたのが、弾幕STGというジャンルを世に知らしめることとなった、1997年発売の『怒首領蜂』なのです。

ヴイ・ファイヴ バツグン バツグンSP
弾の量 大量 大量 超大量
弾速 低速 何気に速い 何気に速い
自機の当たり判定 小さい 小さい 超小さい
ゲームシステム 複雑 シンプル シンプル
弾避けの方針 弾幕の隙間をかいくぐる 弾幕の隙間をかいくぐる 弾幕の隙間をかいくぐる

※ 赤字部分が今回の記事で進化した弾幕要素。『バツグン』でシンプルなゲームシステムが、『バツグンSP』で更に小さくなった自機の判定と、強化された弾幕が加わりました。


(第3回、"怒首領蜂と、それに影響を与えた東亜以外のゲームたち - 『沙羅曼蛇』と『バトルガレッガ』(予)"に続く)


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↑今作でも燦然と輝くIKD氏の御名! in 苗場?


tarako-9p.hatenablog.com

*1:今回の記事では触れていませんが、『ドギューン!!』もそうですね。

*2:ステージ構成も敵配置も知らない初プレイで、どの武器が有効かわかる人間はいませんから。

*3:Oh...no...

*4:コメント欄で虫姫さま鋳薔薇は違うとご指摘いただきました。

*5:例えば、 弾幕とシューティング史----弾幕以前、弾幕以後 - シロクマの屑籠, 弾幕系シューティング - Wikipedia, BATSUGUN - Wikipedia など。

*6:セガサターン版に収録はされているので、作品として非公式なわけではない。

*7:2008年12月、新宿ミカドで行われたイベント「むせるほど東亜プラン!」での上村建也氏の発言。(参照

*8:ただし、周回ごとにステージ数が減っていくという珍しい構成で、実質全14ステージ

*9:笑うトコ。